支縁のまちネットワーク スタディツアー釜ヶ崎探訪 | |
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日時 | 2019年8月29日(木)14:00~17:30 |
場所 | 大阪市西成区 |
講師 | ありむら潜氏(萩之茶屋地域周辺まちづくり合同会社・まちナビ事業部) |
「日雇い労働者の街」として知られる釜ヶ崎だが、近年はインバウンドの増加とともに変化を見せる。今回、あらためて釜ヶ崎を歩くスタディツアーを実施し、7名が参加した。
最初に大阪市立大学・西成プラザで、講師のありむら潜氏から、釜ヶ崎の歴史、労働者数の変化、労働者の暮らしのあり方などについてレクチャーを受ける。
歩き始めて、まず初めに向かった先は「あいりん総合センター」。耐震性の問題により、2019年3月末で閉鎖。取り壊しと現在地での建て替えが決まっているが、閉鎖に反対する人々がシャッターを下ろした建物の外周にブルーテントを張り、泊まり込みの抗議を続けていた。次に訪れたのが、南海電鉄高架下に仮移転して業務を続ける「西成労働福祉センター」。ここでは日雇労働者を対象に、求人紹介や技能講習の案内などの業務を行っている。かつては紙媒体の掲示だった日雇いの求人票が、今ではテレビモニターに映し出され、スマホでも見られるという。
三番目にサポーティブハウス「メゾンドヴュー コスモ」を訪問し、代表者から話を伺う。サポーティブハウスとは、日雇い労働者の自立生活支援を行う民間のサポート付き共同住宅。全室個室で入居者を24時間見守る。服薬が必要な入居者には、職員が居室まで行って服薬をしてもらうなど手厚いサポートがある。当初は自立のための通過型住居だったが、現在は入居者の高齢化のため、看取りや葬儀まで行っているという。
四番目は「あいりんシェルター 無料休憩所・禁酒の館」(NPO法人釜ヶ崎支援機構)へ。主に夜間の寝場所提供を行うが、昼間も仕事がない労働者の居場所を設けている。寝場所には簡易式の2段ベッドがフロアいっぱいに並んでいた(ベッドは550床と聞く)。ここで寝るための整理券が夕方5時半から配られるが、早々と列をなすのは人ではなくて、手提げかばんなどの荷物だ。労働者が自分で並ぶ前に、荷物で列の「場所取り」をするわけである。ありむら氏によると、海外から視察に来た人にその様子の写真を見せると「盗られないのか」と驚くという。こんなところにも社会の質が現われるという話だった。
最後の訪問先は「ひと花センター」。単身高齢の生活保護受給者の社会参加、生活支援を行う活動拠点である。地域の清掃、表現プログラムとして創作活動などを行っている。最近は、生活保護を受けている若い人向けのプログラムも始めた。
一通り見学を終えると再び西成プラザへ。道すがら「Pecca+pu」(ペッカブ)を見る。ソフトクリームの店だが、トッピングがおしゃれで「インスタ映え」するとSNSで評判だという。スーツケース一時預かり所の前も通る。もともとは労働者向けのコインロッカー式荷物一時預かり所だったが、インバウンドの増加によりスーツケース預かりを始めた。
西成プラザでは、83歳の男性住民と懇談のときをもつ。脳梗塞で倒れた妻を14年間介護し、貯金を使い果たして70歳のときに釜ヶ崎に来たという。住まいは七畳くらいの一間、風呂なしだが、今の暮らしは「しあわせ」だと話す。世間的な基準で「しあわせ」を考えがちな自分自身を顧みさせられた。
2022年春には、JR新今宮駅北西側に星野リゾートのホテルが完成する予定になっている。新今宮駅のホームから工事現場が一望できるが、工事はまだこれからのようだった。釜ヶ崎は日本の社会・経済の変化が如実に現われる街であり、今後もまた大きく変化していきそうである。(中西尋子記)